お茶漬けのしみとふるーつ寒天

お手紙風ブログ。それから本と映画、デザイン、アートとなんやかんやを赤裸々に。

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』真実をつきつめることだけが大事ではない


【ワーナー公式】映画(ブルーレイ,DVD & 4K UHD/デジタル配信)|ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

これは発達障害の少年の話だ。
だが、次からは
敢えてその言葉を使わずに感想を綴っていこうと思う。

冒頭は、主人公オスカーの独特な思考から始まる。

「死んだ人はそのうち生きているひとの数を超えるから、
埋める場所として地下の高層ビルを建てればいい。
死後の世界の上に生きている世界があるからちょうどいい」

という趣旨の語りから物語は始まる。
この"高層ビル"のイメージは
9.11のワールドトレードセンターから想起されている。
その日にオスカーの父親は亡くなった。


繊細すぎる少年の独特な語り、表現がとても深かった。
例えば

「太陽が爆発しても人間は8分間気づかない、パパとの8分間ももう戻ってこない」

繊細過ぎて苦手なものがたくさんあるオスカー。
だめなやつだと思わないで!!
父親に訴える姿が懸命であり、痛々しくも感じた。
父親がオスカーが
普通とは違うと疑っていることをオスカー自身が耳にしてしまっているから
尚更痛々しかった。
それでも、
父親との距離はとても近いものだった。

母親よりもずっと一緒にいる時間が長く、
オスカーは父親がおそらく一番の理解者だと思っていただろう。

そんな父親が9.11で留守電を数件残し、最後のメッセージで消息は途絶えた。
最後のコールをオスカーはその場で聞いていたが、
亡くなるかもしれない父親の声を聞くことが恐ろしく、
電話に出ることが出来なかった。

そのことを後悔し、たまたま父親の遺品の鍵を手に入れた時、その鍵に合う鍵穴を探す"調査"へと出かける。

オスカーは調べることはとことん調べる。
その中で、ネットの動画でワールドトレードセンターから父親のような影がビルから落ちていく様子を見つけてしまう。
そんな生々しいものを見つけてもなお、
父親に関する手がかりを見つけ出したい一心で人を訪ね歩き続けるが、
それは傍から見れば傷ついているようにしか見えなかった。
"パパを恋しく思わないためのブラック探し"
は傷つくだけだったのだ。

賢くはあるが、自分で自分が傷ついていることを無視して、
我慢して父親の手がかりを探すオスカー。

その中で、他人だといって近付かなかった"間借り人"と途中で調査を始める。
間借り人との調査を通して、
オスカーはそれまで苦手だったものを克服していく。
話すことが出来ない間借り人はオスカーと同様に、
心に大きな傷を負っている。
だからこそ、オスカーの理解者になれたのだろう。
傷ついたもの同士、
話すのが苦手なもの同士、
そして実は間借り人は血の繋がりのある祖父だからそれは至極当たり前のことだ。

鍵と一緒にあったメモを頼りにブラックという名の人物を訪ねる中、
大事なものを失っている、
だから同じようにオスカーに優しく出来る人々に彼は出会う。
それは彼自身が自分で気づいているかもしれない。

ただ、
一番オスカーと同じように傷ついてきたのは
すぐそばに居る人物、
オスカーが距離を置いていた母親だった。

「ものすごくうるさくて」
というのは事件をきっかけにして音や声、
乗り物などに過剰に敏感になり恐怖を感じていたこと、
「ありえないほど近い」
のは母親との内面的距離のことだ。

オスカーは
人の気持ちが推し量れない"障害者"
では無い。

繊細過ぎて生きづらい、
少し発想が違うだけの、
人を愛することが出来る一人の人間だ。

考えても答えのわからない、
理屈で割り切れないこと、
それは愛情も当てはまるだろう。
それをオスカーは最後に理解し、感じ取ることが出来た。

父親が残した鍵は、
父親の手がかりにはならなかったが、
オスカーが新しい世界の扉を開くための鍵だったのかもしれない。

"ブランコを限界まで漕いでジャンプする瞬間"
まで、
辿り着いたオスカーだからこそ
色々なものを克服し、

「どんなに、願っても戻ってこない
だけどなんとかやっていけそう
何も結果が出ないよりがっかりする方がいい」

そんな言葉で物語は締めくくられる。

「真実は人を自由にする」
そんな父親の言葉を信じていたが、

母親から言葉で説明出来ない何かを受け取り、

信じることが出来るようになった少年の話。